こんにちは、macaronです。
今回は2025.9.13に観劇した、ミュージカル「ある男」の感想です。
とりあえず、事前に原作を読んでいて良かった~~~とは思いました。
圧倒的スピードでどんどん進んで行くので、初見だったら情報を整理している間に置いて行かれていたと思う……。
次からネタバレ有りの感想になります。どうぞ!
キャスト&あらすじ
キャスト
城戸 章良 | 浦井 健治 |
ある男・X | 小池 徹平 |
後藤 美涼 | 濱田 めぐみ |
谷口 里枝 | ソニン |
谷口 恭一 | 上原 理生 |
谷口 大祐 | 上川 一哉 |
城戸 香織 | 知念 里奈 |
小見浦 憲男/小菅 | 鹿賀 丈史 |
あらすじ
弁護士の城戸はかつての依頼者・里枝から奇妙な相談を受ける。
彼女は離婚を経験後、子供を連れ故郷に戻り「大祐」と再婚。幸せな家庭を築いていたが、ある日突然夫が事故で命を落とす。
悲しみに暮れるなか、「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実が……。
愛にとって過去とは何か?人間存在の根源に触れる読売文学賞受賞作。
平野啓一郎 「ある男」 あらすじ
感想
今はもう事故死して居ない原(ある男X)と城戸をW主演のような形にして、二人の対立関係で始まり、城戸が原に寄り添う形でラストを迎える演出、とても良かった。
最初の原、凄い剣幕で城戸に真実を暴くなと言っていたけれど、それすらも彼の優しさ故だと分かるから余計に苦しく感じてしまう。
里枝や悠人、花に余計な不安を与えたくないと本心からの願いがあたっから。
でも一方で、その奥底には自分のことを守るという目的が見え隠れしていることに気付いて、更に苦しんでいそうだけど。
城戸に向ける鋭い目線にヒヤヒヤしながら、里枝を見つめる目は優しさと愛情に溢れていて、最後にちゃんと幸せを見つけられて、報われて良かったという気持ちしかないです。
そう言えば、最近読み終えた「ぼくは勉強ができない」という本で、原の境遇がよぎった文章がありまして……。
父親がいない子供は不幸になると決まっている、というのは、人々が何かを考える時の基盤のひとつにしか過ぎない。
山田 詠美「ぼくは勉強ができない」p109
良いことをすれば、父親がいないのにすごいと言い、悪いことをすれば、やはり父親がいないからだということになる。すべては、そのことから始まるが、それは、事実であって定義ではないのだ。事実は、本当は、何も呼び起こしたりしない。そこに、丸印、ばつ印を付けるのは間違っていると、ぼくは思う。父親がいないという事実に、白黒は付けられないし、そぐわない。なぜなら、それは、ただの絶対でしかないからだ。
山田詠美「ぼくは勉強が出来ない」p109-110
原の父親が殺人者ということが、原自身がそうであることの理由付けにはならない。
ただ、当事者がそれを思うことはできなくて(原の場合は人の命が失われているから余計に)、同じ血が流れていることに怯えるし、恨む。
でもきっと、その怯えや父親に対する恨みといった感情こそが、原の優しさを表しているんだよなあ。
小池徹平くんは、割と明るい役でしか見たことがなかったので(ロナン、玄奘三蔵)、ここまで何かを抱えたほの暗い役が似合うのが意外すぎて、新しい発見でした。
そしてそして、谷口大祐と後藤美涼との対面シーンは、そのシーンがあることにまず驚いた!
原作では城戸は先に単身で大祐と面会していて、美涼と入れ替わりで出て行ったから、詳しい顛末は分からないのです。
けど、美涼が大祐と久しぶりに会うことで、やっと過去を断ち切れる・前に進んでいけるという描写があったのは、個人的にはすっきりしました。
何というか、美涼の楽曲は割とポップというか明るい曲調のものが多くて。
さっぱりした性格だから、分かるには分かるんですけど、微妙に違和感みたいなものも感じていたのです。
が、大祐と会った後のソロ。あれが凄くしっくりきたので、もしかしてわざと違和感を散らされていたのかと思いました笑
ずっと抱え込んでいた憑きものがやっと落ちたような、スッキリとしたような。
伸び伸びとどこまでも響いていきそうな歌声は、何年もかかったけど、やっと本来の彼女を取り戻せたんだと言っているようにも聞こえました。
それにしても、皆が抱えるものはありつつも、前を向けるようなラストを迎えるなか、谷口兄弟だけは、なんだか救われないよなあ、と思う。
まあ彼らが家族として積み重ねてきた結果そうなっただけなので、同情とか、可哀想とかは全く無いのですが。
舞台版の大祐は流石にちょっと悲しいな、と思う余地はあったりします。(原作版は兄弟似たもの同士過ぎて「うわっ」ってなりました)
終わりに
Xでも少し書きましたが、自分が自分であることの証明って難しいよなあ、と思ったかな。
このお話に出てくる人達は、戸籍の交換や、その人の過去も何一つ漏らすことなく共有をしていて、その人に「なる」。
でも、私がよく見ている「呪いの子」の好きな台詞で「自分の過去を書き換えることは出来ない」というのがあるんですよね。それとは対極な行為が実際は起こっている。
……色んな舞台やミュージカル、本に触れると、こんな風に全然違う内容なのに別のお話のシーンが過ることが多くあって、どんな物事も捉え方次第だなあと改めて感じました。
あの内容を3時間に収めるのはこれでもかなり省いたのだと思うのですが、もし再演があるなら里枝の子供達(特に悠人)は居るとうれしいな。
それでは!
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