作者は、あの有名な「君の膵臓をたべたい」を書かれた住野よるさんです。(こんなことを言っておきながら、私は読んでいないです。すみません。)
今回は珍しく、私の直感で選んだものではなく、身内に激推しされて出会った本になります。
周りから見れば取るに足りないことでも、自分にとってはとてつもなく大きな事が起こったりするんですよね、人生って。
良いことも、悪いことも。
文章の一つ一つが全身に染み渡っていくような、そんな本でした。
次からネタバレありの感想になりますのでご注意ください。
それでは、どうぞ!
登場人物
小柳奈ノ花 | 学校に友達がいない小学生。読書が好き |
アバズレさん | 奈ノ花の友達。”彼女”の傷の手当をしてくれた人 |
おばあちゃん | 奈ノ花の友達。よく手作りのお菓子をくれる人 |
南さん | 奈ノ花が建物の屋上で出会った高校生。小説を書く人 |
”彼女” | 奈ノ花の友達。尻尾が少しちぎれた猫 |
感想
実際言うと、少しチートじゃないのか?と思ってしまった部分もあるにはある。
登場するのは、クラスに友達のいない主人公・奈ノ花が、このまま進めばこういう将来になったであろう3人の女性。
だから、奈ノ花が彼女たちのアドバイスを受けて行動を起こした後、元からいなかったかのように彼女たちの存在は消えていく。
ただ、最終的に行動を起こすのかどうかは奈ノ花次第。
いくら彼女たちが助言をしようが奈ノ花自身がそれに納得せずに、意地を張ったままだったなら、同じようになっていたのでしょう。
この微妙な線引きがあったから、面白く感じることが出来たのだと思う。
南さんもアバズレさんもおばあちゃんも、ヒントを出しながらも答えは教えなかった。
奈ノ花が考えて、悩んで、時に辛い思いをしながらも自分で答えを見つけてくる。
その一連の流れがあるからこそ、私は奈ノ花を応援したくなったし、彼女の一喜一憂に共感できた。
「幸せは歩いてこない だから歩いて行くんだね」
奈ノ花がずっと歌っていたこの歌ですが、彼女が歌うことにとても説得力がある。
ネコちゃん、南さん、アバズレさん、おばあちゃん……彼女たちに出会ったからといって、会いに行かないという選択もできたはず。
でも奈ノ花は彼女たちに自分の意思で会いに行った。
お母さんと仲直りするという覚悟を決めたのも、桐生君への接し方をどうすれば良いか考えて、実際に行動に起こしたのも全て奈ノ花自身。
奈ノ花がこれを歌う場面は、彼女はただ単に「しあわせ」を求めていたのではない。自分の足でそこに向かって進んでいたのだと、常にこちらに認識させるような感覚でした。
それから、「人生とは○○みたいなものね」という彼女の口癖。
毎回違う回答が出てきて、まだ小学生なのに凄いなあと素直に感心していたのですが。
それってつまり、人生ってたくさん選択肢や可能性があって、誰一人同じものはないってことなのかな、と考えたりしました。
それにしても。
私が読む本がこういうテーマのものが多いのか、それとも全体的にこういうテーマが多いのか……。
「幸せとはなにか」「どうすれば幸せになれるのか」という内容の本をよく読んでいる気がします。
この本に関しては、物語の中に出てくる授業での課題が幸せについて考えることだったので、その側面を余計に強く感じてしまったかもしれません。
最近なんとなく感じるのは。
……とても個人的な意見なんですけど、今の時代は物質的に満たされすぎていて、逆に幸せを見つけにくいのじゃないかということ。
では、満ちていない時代に戻りたいのか?と聞かれると決してそういうわけではないのだけど。
テクノロジーが発展して、仕事の効率化が進む。
何か足りないものがあれば、24時間営業のスーパーやコンビニに買いに行ける。
好きな時に好きな人と連絡が取れるし、世界中の人とネットワークを介して繋がれる。
一つの事柄について瞬時に膨大な情報を手に入れることが出来る。
挙げればきりがないですが、すごく飽和状態になっているようにも見えてしまうのですよね。
便利になった反面、常に忙しくていらいらしてしまったり、どれが正しい情報なのか判断できなかったり、そういうこともあります。
どうしても人間は求めてしまう生き物だと思っているので、今の環境にいずれ物足りなさを感じ始めて、満たされないと思ってしまうような気がしているのです。
技術の発展に、人間の方がついていけていない……そんな感じ。
そう言えば、物語の中で奈ノ花の移動は常に徒歩だった気がする。
携帯電話も持っていません。
南さんが書いていた小説は手書きで、おばあちゃんが作るお菓子は既製品ではなく手作り。
アバズレさんはいきなり現れた奈ノ花のお願いを聞いて、猫ちゃんの手当をしてくれた。
奈ノ花には無いものもあったのかもしれないけれど、あるものもたくさんあった。
まだ幼い主人公は、彼女の小さい世界の中でたくさん考えて自分なりの幸せの答えを見つけてみせた。
本当に、人が満たされるのはちょっとしたことでじゅうぶんなんだろうな、と思いました。
最後に。
「kill you」と「live me」の繋がりについてはなるほど、と思いました。
あまり意識はしていないけど確かにそうですよね。
おばあちゃんの世界線では、別々の道を歩んでいるというのもいろいろ考えてしまう。
一体どうやって……誰が彼を救ったお話になるのだろう。
断片的に出てきた3つの世界線がどんなものなのか。それを想像するのも一つの楽しみ方なのかもしれないですね。
おわりに
読み終えて思うのは、凄く不思議な本だったということ。
すごくいい!!!とテンションが上がるわけではないけれど、じんわりしたものがずっと続く印象。
自分の小さな世界の中でも、大変なことは大変だし、辛いことは辛い。
でも、ほんの少しの変化で幸せを見つけられる。
それって凄く素敵だと思いますし、一人一人がその少しの幸せを見つけることが出来たら、それはいつか大きなものへと変化していくのではないかな、と考えさせられました。
そう簡単にいかないのがこの世界の世知辛いところですが、奈ノ花みたいに、いつでも幸せをつかむためにそこに向かって歩いて行きたいなと、前向きにさせてくれる本でした。
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