こんにちは、macaronです。
2024年5月4日、前回の大阪公演に続き「カムフロムアウェイ」の熊本公演を観劇してきました。
ほぼ初めての熊本、滞在時間は観劇の一瞬だけだったので、次はゆっくり見て回りたいですね。
前日体調を崩していたこともあり行けるかどうか不安でしたが、一晩ゆっくりしたら落ち着いたので本当に良かったです。
それでは、次からネタバレありの感想になります。
どうぞ!
登場人物
安蘭けい | ダイアン ほか |
石川禅 | ニック ほか |
浦井健治 | ケビンT ほか |
加藤和樹 | ボブ ほか |
咲妃みゆ | ジャニス ほか |
シルビア・グラブ | ボニー ほか |
田代万里生 | ケビンJ ほか |
橋本さとし | クロード ほか |
濱田めぐみ | ビバリー ほか |
森公美子 | ハンナ ほか |
吉原光夫 | オズ ほか |
柚希礼音 | ビューラ ほか |
上條駿 | スタンバイ |
栗山絵美 | スタンバイ |
湊陽奈 | スタンバイ |
安福毅 | スタンバイ |
あなたにはきっと分からない
前回のブログで、劇中何度か出てくる「あなたもきっと同じ事をしたでしょう?」という台詞が印象的だった、というお話をしました。
しかし今回はその言葉とは真逆の「貴方にはきっと、わからない」という台詞が、なんとなく耳に残ったのです。
ビバリー機長が、フライト前にバーで会ったチャールズ機長の死を知ったとき。
そして、確かニューファンドランドから離陸する前に、アリが厳重な身体検査を受けたとき。
そう言えば、そもそもオープニングの「WELCOME TO THE ROCK」でも「この島の話の半分も分からないだろう?」と投げかけてますね。
カムフロムアウェイはとても感動的で温かいお話であると同時に、それだけじゃない、現実的な物事をピンポイントで伝えてくる舞台だと、2回目を見てひしひしと感じました。
「きっと、他の人にはわからない」
その通りだと思う。自分のことが全て分かる他人なんていないもの。
生まれ育った環境や、思想、信条……何一つ同じ人なんて存在しないのだから、結局どこまで行っても完全に理解し合うなんて事は不可能。
でも、だからこそ私たちは言葉を交わして、思いを打ち明けて信頼を築いていくことが出来る。
時間はかかるだろうけれど、理解しようとすることが出来る。
誰かに対して、優しく接しようとすることができる。
それは、ガースが言葉の通じない人達に聖書を通して気持ちを伝えようとしていたように。
ビューラがジョークを言ったり、ただ傍にいてハンナを安心させようとしたように。
ジャニスが必死に状況を伝えながらも、傷ついている人にマイクを向けるのが好きじゃないと思える優しさを持っていたように。
ボニーが人命優先とされていたなか、どんな危険があると言われようと機内から動物たちを探して救い出したように。
ガンダーの人たちが、ケビンT&ケビンJのカップルを温かく受け入れたように。
分からないことは決してマイナスの要因にはなったりしないと、ニューファンドランドの人たちの行動を見て強く感じました。
シーン別感想など
I am here / You are here
台詞でも歌詞でも何度か出てくる「私はここにいます」「あなたはここにいます」という言葉達。
この「ここにいる」というのがカムフロムアウェイの大きな主題の一つなんだろうな。
もちろん、明確な場所の指示語として使われている部分もたくさんあります。
カムフロムアウェイズがニューファンドランドに降り立った時の「地図の上にあなたはここにいます、という印が付けられていた」とか。
テロの映像を見ながらボブが言った「僕がどこにいるかはまだ分からないが、あそこにいないことだけは分かった」とか。
ハンナの語る「私はなぜここにいるの」とか。
でも「ここ」が指すものはある一点ではなくて、もっと抽象的で大きいもの……世界のどこにいても全て「ここ」になるのではないかな。
あなたは「そこ」にいて私は「ここ」にいる、そういうことではなく、この世界にいる全員が「ここ」にいる。
あなたのいる場所が、そして私のいる場所がいつだって「世界の果て」で「何かが始まる場所」になり得る。
そう言えば原文ではどうなのか分かりませんが、「世界の果て」という訳はとても凄いなと個人的に思っていて。
地球は丸いので、この世界に本当の意味で「果て」は存在しないのですよね。
だからこそ「ここ」が示す場所の全てが「世界の果て」になるという可能性を表しているみたいで、ドキッとしてしまいました。
「私はここにいる」「あなたはここにいる」。このたった一言に込められたメッセージが、とても大きすぎるのでもっと咀嚼したいです……(再演お願いします笑)
ケビンT&ケビンJ
ケビンTとケビンJはこの出来事がなければ、こんな結末を迎えることはなかったのだろうか?
人と人が付き合っていく上で些細なすれ違いは当然あるものだけど、この二人はニューファンドランドでのたった5日間で、それが一気に表面化したような気がする。
世界の地理についてはあまり詳しくないので、最初はピンときていなかったのですが、ケビンJの実家があるブルックリンはニューヨークなのですね。
そしてケビンTはロサンゼルスで会社を興しているのだから、そこが出身地になるのかな?家族ももしかしたらそこにいる?
だとしたら、ケビンJの家族はまさにテロが起きた地にいて、ケビンTの家族は真逆の地にいることになる。
カムフロムアウェイのパンフレットに「ニューヨーカーにとってのあの日の記憶」という記事があるように、ニューヨークに住んでいた人たちは、他の地に住んでいる人とは少し事件の捉え方が違っていたのかもしれません。
それを踏まえると、ケビンTが他の乗客やニューファンドランドの人達にすぐに心を開く一方で、ずっとピリピリして引きこもりがちになっていたケビンJというのも納得できる。
ケビンTは、純粋にケビンJに元気になって欲しくて、外に行こうと提案していたけれど、彼が求めていたのはそういうものじゃないって事に恐らく最後まで気づいていなかった。
この二人は、同じ一つの物事を見るときに立場が違えばその捉え方も全く逆になることを教えてくれたような気がしました。
だからこそ、誰かに何かをするときそれが自己満足で終わってしまわないように気をつけたい。
そういや、劇中はケビンJからケビンTへの思いが強いように感じていたのですが、最後のケビンTの「彼が恋しい。彼のジョークが、恋しい」の一言でケビンTもケビンJのことめちゃくちゃ好きじゃんと思った。(まあ、そうじゃなきゃ5年も続かないよね……)
ニック&ダイアン
先ほどのケビンカップルと対になってくるのがニックとダイアン。
この二人は逆に、この事件が起きなければ出会うこともなく、結婚することもなかった。
ニックとダイアンは最後の方にデュエットナンバー「STOP THE WORLD」があるのですが、これは何度聞いても不思議な感覚にさせられる曲です。
カムフロムアウェイの説明文の冒頭で「世界が停止したあの日」という一文が出てくるのですが、テロによって世界は既に停止している中で、彼らの世界は動き始めるんですよね。
そして逆に世界が動き出すとき、つまりカムフロムアウェイズがニューファンドランドを飛び立つ時に、そのまま進めば彼らの世界は終わってしまう。
だから今、この愛しい存在が隣にいる「この世界を止めて」と歌う。
伝えるのが下手で申し訳ないですが、すごく矛盾を含んだ歌に感じるのです。
もちろん、本人達もそれを分かっている。
最後の独白でダイアンが「だけど、怖かった。私たちが出会ったのはあの恐ろしい事件がきっかけだったから」と言っている。
それに実際のこの二人へのインタビューでもしばらく罪悪感に苛まれたと語られています。
でも、誰かを愛すると言うことはとても素晴らしいことだということも私たちは知っている。
こういう事件が起こったときでさえ、人は他人を愛することを忘れない。
そしてそれは私たちにまた、希望を与えてくれる。
だから私は「STOP THE WORLD」がとても好きなのだと思う。
偶然見つけたX(旧Twitter)のカムフロムアウェイUK公式のこのお写真。
これは舞台側から撮影されている写真なのですが、どうでしょうか?とても、希望に溢れていると思いませんか?
飛び立った後
ニューファンドランドから離陸したあとのそれぞれの独白は、テロが起きたという現実を突きつけられるようでとても苦しくなる。
島での5日間だけを描いていれば、現実世界が実は夢だったのではないかと思わせられるかもしれない。
でも重要なのはその後。世界はこれからも続いていくということ。
世界を震撼させたあの事件が起こって、今まで過ごしてきた当たり前の日常が変わってしまった。
乗客達を送り出したあと、今まで我慢してきたものをやっと吐き出せた町長。
まだ燃えているグラウンドゼロを見て、起こった事への恐怖を取り戻したボブ。
消防隊として任務に赴いた息子を喪ったハンナ。
空港の利用客の激減を目の当たりにしたビバリー。
ニューファンドランドでのすれ違いから、そのまま別れることになってしまったケビンTとケビンJ。
「学校にいくのが怖い」という娘に、何をどう説明すればいいのかわからないアリ。
普段の日常を取り戻したようで、ある者は何かが欠けていて、ある者は明確に何かを喪った。
何かが変わったけれど、でもその中でも私たちは生きていかなければならない。
「ここにいる者」として私たちは何を成して生きていくべきなのか、そう強く、深く問われているようなあのフィナーレ。
ハートフルストーリーで心が温かくなりながらも、それだけで終わらないからこそ、とても意味のある作品なのだと感じました。
おわりに
カムフロムアウェイの日本初演が終わってもう一週間ほど経つのですが、なぜかまだ寂しさが残っていて、関連動画をずっと見る日々が続いています。
色んなシーンを思い出しては、泣きそうになったり、温かくなったり。
凄い作品に出会わせてくれて、本当に感謝です。
きっとまた再演はされるのだろうとは信じています。
なのでいつか、カムフロムアウェイズに会えるそのときまで、私の心の一部もそっとここに置いていきます。
しかし、それはそれとしてですね、あの……やはり音源だけでも出しませんか、公式さん?
それでは!
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