夢枕獏先生の陰陽師シリーズ4巻、「鳳凰ノ巻」読了いたしました。
次作「生成り姫」を先に読んでいるので実質5作目になります。
色々探してみたら、まだシリーズ全体の1/3も読めてなくて思わず笑ってしまったのですが、ここから更に面白くなるようなので、楽しみです。
鳳凰ノ巻に収録されているものは割と怖いお話も混じっていて、少しハラハラしながら読んでいました。
(表紙に描かれている髑髏譚も結構怖かったです。)
今回もいくつかお気に入りをピックアップして感想を書いていきます。
それでは、どうぞ!
登場人物
安倍晴明 | 平安時代の陰陽師、天文博士 |
源博雅 | 平安時代の武士、雅楽家 |
蘆屋道満 | 平安時代の陰陽師 |
大江朝綱 | 文章(もんじょう)博士。8年ほど前に亡くなっている |
重輔(猿重) | 籠を作って売る商売人 |
藤原実頼・藤原師輔 | 藤原北家の子孫。実頼は左大臣、師輔は右大臣 |
感想
月見草
最初読んだ感想は、愛している人に遺産を与えるのにあんな回りくどいことなんかせずに、ちゃんと場所を伝えれば良いのに……でした。
でも何度か読んでいるうちに、恐らくこの女性は朝綱の正妻ではないのだなと気がついて。
それは確かに直球で場所を教える訳にはいかないな、と納得したのでした。
しかしそれ以上に、今まで一緒に詩を詠んだり学んだりしてきた関係だったから、彼女ならきっと分かってくれるだろうという期待もあったのかな。
個人的には、それを分からないまま彼女も亡くなってしまったら意味がないのに、とは思う。
でも、残されたものというよりも詩のの意味のがわかったことで思い残すことがなくなったというあたり、この二人はこれで満足だったのかもしれませんね。
そしてこのお話、実は一番好きなのは朝綱が住んでいた屋敷に詩や歌好きが集まって、満月を背景にお酒を飲みながら創作したり、その感想を述べたりする場面だったりします。
自分の趣味が分かる仲間と集まって、熱く語り合ったり、批評しあったりするのが楽しいのは、いつの時代も変わらないものだなあと、すごく微笑ましかった。
しかもそれが満月の光を浴びながら、少しのお酒をともにできるのであれば最高です。
私自身に置き換えてみると、今だったらミュージカルや本の感想を言い合うとか。
学生の頃なら、友達とスケッチブックにたくさん絵を描いてみたり。
もっと言うなら小学校の休み時間に「ドッジボールしようよ!」とグラウンドに走って行くのも同じような感覚。
そういうのを楽しむ気持ちはいつまでも持ち合わせていたいものです。
本編とは全く関係ないのですが、晴明が村上天皇を「あの男」と呼ぶのを受け入れ始めている博雅に少し笑ってしまった。
毎回咎めていたのになあ。
受け入れているというか、もはや諦めているのかもしれないですね。
手をひく人
これは……夏に読むにはぴったりのお話ですね。
意味が分からない現象に怖くなって、ゾッとして、そして少しのもの悲しさを含んだお話です。
正直、当事者だった猿重と奥様にとっては、事件解決後もしばらくは眠りたくない日が続きそうではある。
知らないうちに死者に目をつけられて、気づいたら橋から身投げしようとしていたとか恐怖でしかない。
しかし、30年前に橋が壊れないための人柱となってしまった夫婦は、博雅が言うように律儀さもあったけれど、それ以上に優しさもあったのかな。
自分たちが犠牲になったあとも橋が壊れてしまえば、きっとまた別の人柱が選ばれてしまうことになる。
本人たちも人柱になんかなりたくないと思うのが本心ではあっただろうに、覚悟を決めて橋を守ってみせると宣言し、それを本当にしてしまうのは皆を思ってでないと出来ないよ。
今回、猿重夫婦を新しい人柱に立てようとしたのも、近々来る嵐で橋が壊れてしまうのが分かっていたから仕方なくという感じでしたし。
危うく殺されかけた人からすれば堪ったものではないけれど、事実を知ってしまうと単純に怒りを向けるということが難しくなるね。
こういった風習は、きっとどこの国でもあったもの何だろうけど……。
やるせない気持ちもありますし、こういうものってどうして民から選ばれるのが前提なのかなと思ってしまいます。
偉い人たちの間で勝手に決まって、下の人間はそれに振り回される。
あれ?今の世の中も言うほど変わってないかもしれないですね。
晴明、道満と覆物の中身を占うこと
こういうおはなしとっても好きです!!!
周りの人たちを置いてけぼりにして、晴明と道満の二人だけでやりとりが成立している。
二人の世界……というのとは少し違いますが、対等の立場の者にしかわからない感覚、言葉を交わさずとも伝わる空気感みたいなものが大好きなのです。
私は晴明も博雅ももちろん大好きなのですが、道満が登場してから彼に心を奪われているんですよね。
悪役に見えて実は悪役じゃない。孤高と孤独という矛盾した二つを内包している人物だと思っています。
そして個人的に、実は晴明も博雅がいるから人間の世界に留まっているだけで、心の中では道満の考え方と近しいものを持っている気がしているのです。
だからこそ、道満との約束を守って師輔の所有物である十二神将のうち一つを彼に渡した。
晴明と道満の、このお互いの存在があるから、それぞれの立ち位置がより明確になる感じがとても好きなのです。
お話の最後で道満がひっそりと「おもしろかったなあ」と晴明に言った場面、道満の本当の気持ちが思わず出てきたみたいに感じられて、泣きそうになりました。
そのあとの晴明と博雅の同じやりとりもそうなんですけど、自分のことを理解してくれる人がこの世に一人でもいてくれたら、それはとても幸せなことなんだと思えるお話でした。
それから、このお話にも藤原氏がたくさん出てくるので調べました。
今回の事の発端となった実頼と師輔ですが、この師輔の子供が「付喪神ノ巻 打臥の巫女」で争っていた兼通、兼家兄弟でした。
なんだか、藤原家はいつも兄弟で争いあっているなあ……。
そもそもが藤原四家(藤原不比等の子供たち)で殺し合いレベルの地位争いばかりしていたから、確実に受け継がれていますよね。
まとめ
今回の鳳凰ノ巻、手に取ったときは薄く感じたのですが、いつも通り内容が濃くて大満足でした。
そして丁度暑くなってきましたので、「手をひく人」や「髑髏譚」のようなホラー話を読むにもよい時期でした。
そしてそして!次の「龍笛ノ巻」で賀茂保憲が登場するそうなので楽しみです。
一応これでメインキャラクターが揃うことになるのですかね?
また近いうちに次巻を買いにいってきます。
それでは!
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