2023年10月8日、大阪梅田芸術劇場にてミュージカルラグタイム、観劇してきました。
白人、黒人、移民。
今よりももっと人種への偏見や差別が当たり前だった時代のお話なので、とても重いテーマであること。
そして3つの人種が入り交じるので、複雑そうで理解できるのかという不安。
心配が尽きませんでしたが、そんなものは杞憂でした。
重いお話というのは、ある程度覚悟の上だったのでもちろんですが、複雑性についても演出でとてもわかりやすく描いてくれていましたので、ストレスなく観劇することができました。
次からネタバレありの感想になります。
今回は、印象に残った3人の登場人物について語っています。
それでは、どうぞ!
キャスト
ターテ | 石丸幹二 | 娘と共にラドビアからアメリカに渡ってきたユダヤ系移民 |
コールハウス・ウォーカー・Jr | 井上芳雄 | 黒人の才能溢れるピアニスト |
マザー | 安蘭けい | 裕福な白人家庭の女性 |
ファーザー | 川口竜也 | マザーの夫。工場経営者 |
グランドファーザー | 畠中洋 | マザー、ヤンガーブラザーの父親 |
ヤンガーブラザー | 東啓介 | マザーの弟。ファーザーの工場で働く |
サラ | 遥海 | コールハウスの恋人。白人の家で選択婦として働く |
ブッカー・T・ワシントン | EXILE NESMITH | 黒人。啓蒙活動を行う教育者 |
エマ・ゴールドマン | 土井ケイト | アメリカ資本主義を批判するアナーキスト |
ハリー・フーディーニ | 舘形比呂一 | アメリカで名を馳せた奇術師 |
イヴリン・ネズビット | 綺咲愛里 | アメリカ一美しいと言われたモデル・女優 |
ラグタイム、この時代にこそ見るべき演目
なんというか、この演出家とキャストたちが揃うのを待っていた!というようなミュージカルだったな。
今の時代に上演されることにも大きな意味を感じる。
こういう歴史上起こったことをテーマにしている演目を見ると、どうしても遠い昔のお話と思ってしまいがちなのですが、実はまだたった100年前の出来事なんですよね。
実際にこういった理不尽がまかり通っていたという事実。
たくさんの血を流しながらそれと戦い続けた人たちがいるということ。
歴史を学んでいると、同じ人間が行っていたのか?と疑いたくなるような出来事もたくさんあります。
しかし、人類が歩んできた道として目を逸らさずに向き合うこと、何が起こったのか事実を認識すること。
それがこれから同じ事を繰り返さないための教訓になっていくのだと信じていたい。
真実と向き合ったとき、彼は変わった:ファーザー
さて、このミュージカルなのですが、裏の主人公は川口さん演じるファーザーなのかなと思っています。
混在する3つの人種の象徴として、ユダヤ系の移民を石丸幹二さん、上流階級の白人を安蘭けいさん、そして黒人を井上芳雄さんが演じています。
人種に対して偏見がないマザーに対して、ファーザーの考え方は当時としては当たり前のもの。
白人以外とは握手もしたくない。馴れ馴れしく話しかけないで欲しい。
強く罵るわけではないけれど、言葉や態度の節々に滲み出るものは隠せてない、それがファーザーへの第一印象でした。
北極圏への探検から戻ったとき、我が家には黒人が出入りしていて、妻をはじめ、みんなが彼の奏でる音楽の虜になっている。
自分だけが理解出来ないことへのもどかしさ、居心地の悪さ。
それでも、彼は最後変わるんです。
コールハウスたち黒人が立てこもっている建物の中に入って、彼らの中の譲れない信念や、それを守るために命をかけて闘う姿を見る。
そして、彼らも他人を思いやる優しさや強さを持っていて、それは白人とか黒人とか関係ないんだという事を知る。
かつてマザーがファーザーに対して言い放った「変わらないものなんてないのよ」という台詞がね、ここで頭をよぎったんです、私。
彼がコールハウスに向かって手を差し出したとき、たとえ気に入らないと思っていた相手であっても、それを乗り越えていつかお互いに認め合えるようになるのだと、光を見たような気がします。
その行動は疑問を抱きつつも眩しく見える:ヤンガーブラザー
ファーザーと同じ白人でありながら、彼とは真逆の立場となったヤンガーブラザーについても少し触れたいと思います。
ヤンガーブラザーの印象は、良くも悪くも一途で感情的。若さ故の視野の狭さだとは思いますが。
多分それはこの物語が始まってから終わるまで変わっていないと思います。
イヴリンへの愛を表現するために彼女の名前を花火にして打ち上げたり、後半ではコールハウスたちの味方になりたいと、彼らと一緒に事件を起こしたり……。
ヤンガーブラザーがあそこまでコールハウスに強く惹かれたのはなんでだろう。
思えば、コールハウスがマザーたちの家でピアノを奏でたとき、一番反応していたのはヤンガーブラザーだったように思う。
「なんとなく物足りない生活」を送っていた彼の世界に、突如現れたピアノ一つで人を魅了するコールハウスはとても衝撃的で眩しく見えたのかな。
ヤンガーブラザーの言葉でとても印象に残っているのは「僕は、爆弾の作り方を知っている」。
黒人であるコールハウスたちと、白人である自分。どうあがいても変えられないその立場を埋めるために、彼らに信じてもらうためにはそういうしかなかったんだろうな。
最終的に出た言葉はそれだとしても、ヤンガーブラザーの正義感は本物だった。
彼らと一緒に死んでもいいと宣言できるほど。
だからこそ、彼はコールハウスの元に行くべきじゃなかった。
白人の立場を利用して、白人たちに呼びかけ皆を巻き込んでいく。ヤンガーブラザーにはそれができるだけの行動力があった。
後の時代から客観的に見ている立場なら何とでも言える、と私自身も思ってしまいますが、どうせ命をかけるならヤンガーブラザーの立場でしかできない行動を取る彼も……見てみたかったですね。
まあ、ヤンガーブラザーに感情移入出来ないなんてことは無くて、私自身が感情型だからめちゃくちゃ彼の行動は分かるんですけどね!
物語の外側にいるようにも見える存在:エドガー
最後に少しだけ、エドガー(ファーザーとマザーの子供)のお話です。
彼が予知能力者なのか、過去から途切れ途切れの記憶を持ったまま戻ってきた少年なのかは分からず仕舞いです。
彼がずっと言っていた「大公さんに気をつけてって伝えて」という台詞。
パンフレットで脱出王フーディーニがハンガリー出身であることを知り鳥肌が立ってしまった。
最後に少しだけ出てきましたが、第一次世界大戦の引き金となったサラエヴォ事件は、まさにハンガリーの皇太子夫妻が殺された事件だったはず。(当時はオーストリア=ハンガリー帝国だったかな?)
そしてこれも、支配する側と支配される側、民族対立が大きく関わっている。
結局、世界のどこを見ても自分たちと違う人たちは恐怖の対象になり得てしまうのだなあと思いました。
そう言えば、エドガーがフーディーニに直接「大公さんに気をつけてって伝えて!」と言うシーンで、フーディーニは「どこかで会ったかな?」と言っていた。
ここまでの物語の中で、この二人が直接対面したシーンありました?覚えていない……誰か教えてください。
おわりに
最後の挨拶で井上さん、石丸さんがおっしゃられていたように、この時代から100年たった今でも人種の違いによるトラブルや事件は多く発生していて、根本的な解決には至っていません。
そもそも、人種の違い以外にもたくさんの要因が複雑に絡み合っていることも多く、完全にこの問題がなくなるのは多分難しいのかな、と思うときもあります。
しかし、少なくとも偏見を持たない人もいること、多様性が認められ始めていること……一歩ずつですが、私たち人類は過去の愚行に学び成長できているはずなんです。(戦争が起こっている事実もあり、成長していると断言は出来ないのが悔しい)
本当に学ぶこと、考えさせられることが多い演目でした。
学校の教養科目として見るべき演目なのではないかな?それくらい若者にも見て欲しいですし、というか全員に見て欲しいミュージカルでした。
また再演があるかと思いますので、楽しみに待っていますね。
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