2023年5月3日、ビートルズの誕生からデビューまでを描いた舞台「BACK BEAT」を見てきました。
バンドメンバーには初演と同じ5人が再集結し、舞台上で楽器をかき鳴らし、歌い、そしてたまにふざけ合いながら、デビューへの道のりを駆け抜けていきます。
チケットを取ったのが、ザ・ミュージック・マンの観劇後でしたのでどうかな~と思っていたのですが、2階のど真ん中というとても良い席で観劇できました。
そして、私が舞台を見るきっかけになったアーティストの加藤和樹さん。
彼が舞台上で役を生きる姿を、やっと拝見することができて感無量です。
今回も、ネタバレが満載ですのでこれから観劇される方はご注意ください!
登場人物
スチュアート・サトクリフ | 戸塚祥太 | 画家。ビートルズのベース担当。後に脱退し画家の道へ戻る |
ジョン・レノン | 加藤和樹 | ビートルズのギター&ボーカル担当 |
ジョージ・ハリスン | 辰巳雄大 | ビートルズのギター担当 |
ポール・マッカートニー | JUON | ビートルズのギター、後にベース担当 |
ピート・ベスト | 上口耕平 | ビートルズのドラム担当。デビュー直前に解雇 |
クラウス・フォアマン | 西川大貴 | デザイナー。アストリッドの恋人 |
アストリッド・キルヒヘア | 愛加あゆ | 写真家。クラウスの恋人。後にスチュアートと結婚 |
お互いを探していたジョンとスチュ
考えれば考えるほど、この二人って本当に正反対だなあって思います。
ジョンは自分の持つ熱量を全て外へ発散していくタイプ。
凄く自由。コロコロ変わっていく感情や表情に周りは振り回されるけど、そこに惹きつけられる。
一方スチュは、熱を内に秘めるタイプ。感情を露わにはしないけれど、心から楽しいと思うもの、特に芸術にはとても熱い気持ちを持っている。
二人は真逆の天才だった。
アストリッドが「ジョンは貴方の才能に嫉妬しているのよ」とスチュに言うけれど、それはスチュも同じだったと思う。
ジョンもスチュもお互いに自分が持っていない部分に嫉妬していたし、そこを求めていたと思うんだよね。
うーん、表現するのがとても難しいんですけど……知っている言葉で当てはめるなら「魂の双子」、ですかね。(ハリー・ポッターに登場するジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックの関係性で使われていた言葉です。)
スチュがアストリッドに夢中になって、なかなか現場に来なくなったときのジョンが言った「どこにいるんだよ、お前は」が本当に半身を求めているような声色で切ない……。
彼らは二人で一つのような関係だったけれども、海岸で別の道を進むことを決めたあの日に「ジョン・レノン」「スチュアート・サトクリフ」という個として分かたれ、お互いを認識したように感じました。
その後のハンブルク最後の演奏で、ジョンが全くスチュの絡みに行かないのがとても印象的で。
それまでのライブでは、歌っている時以外はかなりの頻度でスチュに絡みに行ったり、視線を送っていたりしたのに、この回はスチュを全く見ていなかった。
スチュはスチュでいつものようにサングラスをかけてステージに立ち、ジョンとの、そしてメンバーたちとの時間を噛みしめながら最後の演奏を終える。
彼に後悔の気持ちがあったかどうかは分かりません。
でも、ビートルズのベーシストとしてもう彼らと、ジョンとステージに立つ未来がないことに対して少しの寂しさはあったはずです。
きっと、その感情もサングラスの向こうに隠してしまっているのだろうけれど。
twist & shoutの歌唱中、観客席にいきなりスチュが現れる。
いや、私たちにはいきなり現れたように見えただけで、葬儀後誰かが言っていたように彼はずっとそこにいたのでしょう。
そしてジョンと二人、肩を組み合いながら額縁の向こうへと消えていく。皆で額縁の向こうからこちら側へ来て、最後は二人で戻っていくあの演出、いいですよね。
現世で別々の個として存在した彼らは、死後、一緒にいられたらいいなあ。
そして額縁演出もそうですが、この二人の始まりと終わりが両方ともシガーキスなのもまた、お互い自分のない部分を埋めてくれる何かを持っていたように感じさせられました。
ずっと5人で駆け抜けられると思っていたあの日
BACK BEATを振り返ったとき、本当に心から楽しいと思えるのは一幕の途中までだったなと気づきました。
それは物語がつまらなくなるということではなく、デビューを目指していくなかで様々なしがらみやすれ違い、選択したり切り捨てたりしないといけないことの増加からきているものです。
音楽活動外で考えないといけないことがどんどん増えてくるんですよね。
最初の頃、若さ故のノリと勢いと夢だけで駆け抜けていた5人はとにかく輝いていた。
汚いクラブでの演奏だし、観客も自分たちが想像していた客層ではなかったし、酒・女・ドラッグ……悪いことにも少なからず手を出した。
でもそこにはクラブオーナーとの契約以外の枷はなくただ毎日前を向いて必死に演奏して、必死に生きていた。5人で。
環境は最悪だったけれど、皆でデビューを目指していた彼らを見ていると自然に笑顔になっていました。
それも途中まで。
クラウスがアストリッドをクラブへ連れて行き、彼女とビートルズを引き合わせたとき。
そしてアストリッドがスチュに向かって「貴方がここに来たのは『運命』だった」と言い放ったあの瞬間から、少しずつ彼らの関係は変化していき、そしてそのあたりから演奏を聴いても笑顔になれていない私がいました。
ずっと肯定的な意味で捉えてきた「運命」という言葉を、こんなにも都合がよくて自分勝手な言葉に感じてしまったのはこのときが初めてです。
そして、ピートについても。
デビューして世界を獲るためには、外見だけじゃなくてちゃんと技量も伴っていないといけない。
ショー要素だけではなく、きちんとビジネスとして確立させる必要がある。そのために今までの当たり前を捨てないといけないこともたくさんある。
ピートの解雇は、ビートルズの未来を見据えた解雇だった。
そして彼を切ったとき、ピートがそれを受け入れたとき、今までなりふり構わず全力で走ってきた彼らは完全に過去のものになってしまったように感じました。
もう、あのころのようには戻れない、それでも自分たちの最善を選び取っていくしかない。
見ている側も頭では分かっているんですけど、やはり苦しい……。
ただ、ジョンとポールについてはピートがビートルズのドラマーとしてデビューする未来を見ていたのかは疑問でしたけどね。
ジョンがアストリッドにメンバーを紹介するとき、ピートだけ適当だったり、ポールの「ビートルズは僕とジョンでもってる」発言とかもそう。
ジョンとポール、最後にピースがはまったふたり
BACK BEATのシーンでどこが一番好きかと聞かれたら間違いなく二人のシーンを答えます。
PLEASE PLEASE MEの場面なんですけど、二人のメロディーももちろん素敵なんですが、あのやりとりを経てやっと二人のピースがはまったのかな、という気がしています。
二人はビートルズ以前から音楽での絡みもありましたし、それって今更?という感じはあります。
しかしスチュ加入後の二人を考えると、やはりここで再度二人がはまったというか。以前の二人を取り戻した感じが強かったんですよね。
「嫉妬してるのか?」とからかい半分に聞くジョンに「嫉妬してるよ」と真面目に返すポール。
この素直さがどれだけジョンの心に響いたのだろうと、この物語を振り返るときはいつも考えてしまいます。
思えばジョンはスチュに対してもあまり素直じゃなかった気がする。
いつもどこかふざけた調子で、最後の最後本当にどっちに転ぶかわからないギリギリのラインで本心を混ぜてくる。
そんなジョンが、あれほど真っ直ぐに本音を伝えてくるポールを前にして、何も思わないはずがない。
歌い終わったあとに目を合わせて微笑む二人の間にはすっごく穏やかな空気が流れていて、ずっと苦しい展開が続いていた後半で、唯一癒しだなと思えるシーンです。
……まあ、絵面的にはジョンは酔っ払って便器をかぶっていて「なんぞそれw」となってしまいますが……笑
最後に
初演でも思いましたが、やはり生バンドは良いですね!!!
バスドラが身体の奥に響く感覚、耳に馴染むベースの低音、テンションをぶち上げるギターメロディー、そして心を震わせるボーカル……。
私もはやくライブに行きたいです……!
そう言えば、スチュは途中で脱退・死亡しているんですよね。
それでも彼がつけたグループ名「THE BEATLES」という名前はこれからもずっと語り継がれ残っていく……。それってとてつもなく凄いことだよなあと今回ふと思いました。
初演よりも格段に成長したように感じた5人の音楽をまたいつか聴ける日を心待ちにしていますね(再演お待ちしております!)
でもその前に、今回の残りのツアーも怪我なく全員で駆け抜けられますように!
最後に、恒例の美味しい食べ物たちを載せておきます。
おしまい!
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