夢枕獏先生の陰陽師、6巻目「龍笛ノ巻」、この巻で遂に賀茂保憲と露子姫が登場しました!
一応これで主要人物は全員揃ったのですかね?
蘆屋道満初登場回も思ったのですが、皆さん本当に個性的でいいキャラをしておられる。
これから描かれるお話でこの主要人物たちがどう関わってくるのか、本当に楽しみです。
今回龍笛ノ巻を読んでぼんやり思ったことが一つありまして。
……なんだか、とても犬が可哀想だなって。
さて、次からネタバレありの感想です!どうぞ!
登場人物
安倍晴明 | 平安時代の陰陽師、天文博士 |
源博雅 | 平安時代の武士、雅楽家 |
蘆屋道満 | 平安時代の陰陽師 |
賀茂保憲 | 晴明の師、賀茂忠行の息子。陰陽師 |
露子姫 | 四条大路に住む、橘実之の娘 |
首
前回、「鳳凰ノ巻」で少しホラーチックなお話があると言ったのですが、それとは比にならないお話だったのがこちらの「首」。
本当に怖すぎる。
いつも物語を読むときは、できるだけ情景を浮かべて自分の頭の中で映像化しながら読んでいるのですが、それをすると心が折れそうなレベル。
何より、今回の首たちが怨霊になってしまった処刑事情がもっと怖い。
いくら悪人とはいえ、同じ人間にここまでできるのもすごいなと思ってしまう。
さて。
陰陽師シリーズを読んでいていつも思うのは、冒頭の晴明と博雅の会話がいつも結の部分に繋がっているので、最後まで読んだ後もう一回戻りたくなるんですよね。
「人は生きるために、他の生命を奪って食べる。つまり、人は生きているだけで罪深い」
人間に限らず、自然界の生き物に全てに当てはまる真理ではないでしょうか。
食べるという行為は、人が生きていく上で何よりも大事なものですし、だからこそ食に対して貪欲になる。
今回のお話は、その人間の本性をまざまざと見せつけられた感じがします。
餓死寸前まで追い詰められて処刑された先ほどの首たちは、その空腹を満たすために人や犬の肉を食べるのに、首から下がないため全く満腹にならない。
そしてそれに気づかない首たち。
彼らは既に亡くなっているので理性とか本能とか、そういう括りはないのかもしれません。
しかし、食欲を満たしたくて目の前のものに群がる様は、生きている私たちが必死に押さえ込んでいるものが解き放たれた姿だと思いました。
もし今この瞬間に、食べるものが全て消失したら……私は恐らく何でも食べてしまう、かな。
首たちの姿を見て「うわぁ……」と感じるのではなく、「これが本来の私の姿なんだ」と俯瞰して考えられたということは、少しずつでも成長しているのですかね、私も。
そう思うことに、今はしておきます。
話は変わりますが今回の事件のきっかけになった青音姫。
彼女はいったいどのタイミングで亡くなっていたのだろうか?というのが最大の疑問でもあります。
私は、催し物をするために藤原為成、橘景清両名に六角堂へ来るよう手紙を送った時点で、もう首たちに食べられてしまっていたのでは?と考えています。
でも、それだと二人が六角堂に集まったときに臭いとかに気づかなかったのが不思議なんですよね。
為成が戻ってくる直前に殺された?でも首たちは後から追いかけてくる構図だったしなあ。
どちらにしても、為成はやっと六角堂に逃げ込んで助かったと思っていたのに、そこにいた青音姫もすでに首だったと分かった場面が一番怖い。
そしてそして!
このお話は、賀茂保憲の初登場回です。
この平安時代を安倍晴明と並んで代表する陰陽師である彼ですが、なんだかゆるすぎる!!!
年下の晴明に術を破られて「ちぇっ」とか言っているのも可愛いですし、堂々と「面倒くさい」とか言ってしまうの面白すぎます。
幼少期のエピソードを見ても、父親に祓に連れて行って欲しいとあれだけ駄々をこねていた(?)のに、いざ陰陽道の話を聞くと「ふうん」で終わっているし。
彼の本質というものはきっと幼い頃から変わっていないんだろうなあ。
どうしよう、どんどん好きなキャラが増えていく。楽しい。
余談ですが、このお話に出てきた「三輪の酒」って奈良の三輪ですよね?
次回奈良に行くときは三輪に行く予定なので、現地でまた飲んでこようと密かに決意した次第です。
むしめづる姫
このお話でこういう感想を出すのも申し訳ないのですが。
私は虫が好きではないです。
だから、露子姫が虫を収集する気持ちは全く分からないのだけれど、彼女がそういう行動を取る理由はとても好きだし理解出来るつもりです。
露子姫の見ている世界は、きっと誰よりも広かったのではないか。
流行り廃りで移り変わっていくものではなく、見た目の華やかさだけが目立つものでもない。
世界の一部として「そこにあるもの」に興味を持ち続ける知識欲の深さ、本質を見抜こうとする観察眼。
あるがままを愛し、そのままの自分で生きていきたいという純粋な心。
誰よりも素直に、そして正直に生きる露子姫はとてもキラキラしていて憧れてしまいます。
多分、彼女の見る世界が輝いているから、彼女自身も輝いて見えるのでしょうね。
現代とは年齢の感覚が少し異なるのかもしれませんが、この歳で親や、周りを囲む大人たちにきっぱりと自分の意見を言える信念の強さも凄い。
今の世に存在していたら、研究者になって世界中を飛び回っていそうだな……と考えるなどしました笑
そして物語の裏側にいたのはまさかの蘆屋道満でした。
最初あんなに晴明のライバル風なキャラとして登場したのに、既に皆と打ち解けているのが面白い。
まあ、「ライバル風」というだけで実際はライバルとは少し違っているのですが。
今まで晴明、博雅、道満の3人が揃ったとき、博雅は、晴明が言い出すか博雅が自主的にそうするかでしか笛を吹かなかったのに、今回初めて道満に言われて笛を吹き出したのを見てなんだかじーん、ときてしまいました。
変わりゆくからこそ美しいと感じるもの。
ずっと変わらない美しさを保っているもの。
年齢、性別、立場、思考……全てが異なる者たちが集まって一つのものを見届ける風景。
流れてくる博雅の笛と、露子姫の純粋さによって生まれた式。
幕引きの余韻がとても穏やかに頭の中に染み渡っていく、そんな物語でした。
おわりに
冒頭にも書いたとおり、今回は賀茂保憲、露子姫といったメインキャラが登場した回でしたので、そのお話について感想を書いてみました。
こうして書き上げてから見てみると、片方は想像するのも恐ろしいほどのホラー。
片方は温かい気持ちになるストーリーと、見事に真逆ですね。
登場人物が増えたことによって、お話の幅も広がりそうだなという予感もしているので今後の晴明と博雅の活躍も今からすごく楽しみです。
次巻は太極ノ巻、また購入してきます。
それでは!
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