こんにちは、macaronです。
今回は9/15にシアタークリエで観劇したミュージカル「ファンレター」の感想を綴っていきたいと思います。
日本統治時代の韓国。
検閲などが厳しいなか、自国の文化を残すために奮闘した文人達のお話ですが、とても面白かったです。
これを手放しに「面白かった」と言っていいのかは凄く悩みますが、とりあえず今は、感じたまま感想を書いていきます。
以下よりネタバレありの感想ですのでご注意ください。
それでは、どうぞ!
登場人物&あらすじ
チョン・セフン | 海宝直人 | 東京に留学している作家志望の青年 |
ヒカル | 木下晴香 | セフンのペンネーム |
イ・ユン | 木内健人 | 詩人、小説家 |
イ・テジュン | 斎藤准一郎 | 小説家 |
キム・スナム | 常川藍里 | 詩人、評論家 |
キム・ファンテ | 畑中竜也 | 文学評論家 |
キム・ヘジン | 浦井健治 | セフンが憧れる作家 |
セフンの父 | 大鷹明良 |
1930年代・京城。セフンはカフェで驚くべき話を耳にする。亡くなった小説家ヘジンと恋人の”ヒカル”が共作した小説が出版される、しかも謎に包まれたヒカルの正体まで明らかになるという。
セフンはヘジンの友人でもある小説家イ・ユンを訪ね、とある理由から出版を止めるように頼む。だがイ・ユンは頼みに応じないどころか、ヘジンがヒカルに最後に宛てた手紙を持っていると嘯き、セフンにヒカルの謎を明かすよう迫ってくる。なんとしても手紙を手に入れたいセフンは、隠してきた秘密を語り始めるー。
東京に留学していたセフンは、自身が日本で使っていたペンネーム「ヒカル」の名前で尊敬する小説家・ヘジンに”ファンレター”を送っていた。手紙のやり取りを通して二人は親しくなっていく。
その後、京城に戻り新聞社で手伝いを始めたセフンは、文学会「七人会」に参加したヘジンと出会う。だが、肺結核を患っているうえにヒカルを女性だと思って夢中になっているヘジンに対して、ヒカルの正体を明かすことは出来なかった。
これまでどおり手紙を書き続け、完璧なヒカルであろうと決心をしたセフン。ヒカルはどんどん生きた人物になっていく。
そんな中、セフンが書きヘジンに送っていた小説がヒカルの名前で新聞に掲載され、ヒカルは天才女流作家として名を知られ始める。ヒカルの正体が明らかになることを恐れたセフンはー。
ファンレター パンフレットより
感想
セフンとヒカル
この二人、苦しすぎないか???
ここにヘジンを入れた3人の三角関係にも見える両思いのようなあの感じも相当苦しいが、その苦しさをより倍増させているのがセフンとヒカルなのだと思う。
セフンとヒカルは同一人物のはずなのだけど、物語が進むにつれて何度も自分にそう言い聞かせないと一瞬で忘れそうになる。
そんな乖離の仕方だった。
最初は同じ動きをして、セフンの悩みに答えるようにヒカルが言葉を紡いでくれていたのに。
「ヒカル」というペンネームを作ったからこそ、自分の作品が受賞されたと喜んでいたのに。
この最初があったから、最後にセフンがヒカルに向かって叫んだ「お前なんかいらない!」が、悲しく心に突き刺さる。
自分の中にいるもう一人の、本心の自分を殺すというのは、どんな感覚なのだろう。
何回も言いますけど!ヒカルはセフンなんですよ!
だから、この一連の出来事を起こしたのは紛れもなくセフン。
「ヒカル」は自分のペンネームであり、この世に存在する女性ではないと打ち明けられるタイミングがあったにも関わらず、「ヒカル」として手紙のやりとりをするのを決めたのも。
「春のようだ」と憧れていたヘジンを孤独に追いやり、閉じ込めて小説を書かせたのも。
行き着く先の死と、その死によって完成される最高の物語をヘジンと共に書き上げたいと願ったのも。
そしてそのために、彼に居場所をくれた七人会を陥れたのも。
ヒカルが起こした行動に見えて、セフンが自分の深層心理を叶えていたに過ぎないんだよなあ。
そういや、セフンがヒカルを殺したときの「鏡」という曲。
物語では、手にペンを刺すことでヒカルと決別したのだけど、曲名を聞くとあの行為は鏡を叩き割ったのかな、とも思えてきて。
鏡を割るとどうなるのか。
破片が飛び散って、怪我をする。割った方も、割られた方も。
割って傷ついたのはセフン。割られて傷ついたのはきっとヒカルではなくて、セフンが「ヒカル」というもう一人の自分を通して見ていたヘジンだったのではないかな。
鏡を無くした状態で対面したセフンとヘジンは、そうなるよなと思うくらいお互いを傷つけ合っていて。
でも、最後のヘジンからの手紙できっとセフンは救われたのだと思う。
開幕からしばらく立ってようやく出た日本公演のプロモーション。
「先生は、手紙が……文学が人を救えると思いますか?」
「もちろん」
最後の穏やかな幕引きは、きっとそうだったのだと信じたい。
ヘジンとユン
私はこの二人のやりとり、特にユンがヘジンの居場所を突き止めてからのシーンが一番好きだったりします。
ヘジンが振り絞るように言った「僕だって生きたいんだ!」は今思い出しても鳥肌が立つ。
自身が患っている結核との闘病、そして決して長くない残された命についてこんな風に声を荒げて叫んだのはここだけだったような気がする。
多分このとき対面しているのがユンだったからこそ吐露できた本心なのではないかと、そう思う。
セフンでも、ヒカルでも、七人会の他のメンバーでもなくユンだったからこそ。
例え死がそこまで迫ってきていたとしても、文章を書いている間自分は生きているのだと実感できる。
死までの道のりでさえも輝いて見える。
その輝きを同じ文人であるお前が奪うのか、言葉を奪われた中で、更に書くことまでも取り上げるのかと、批難にも懇願にも聞こえるような叫びだったなあ。
ユンが凄いなと思ったのは、ヘジンを本当の意味で死なせたくないという親友としての思いと、ヘジンから書くことを奪いたくないという文人としての思いを両立させながら、最後は文人としてヘジンに向き合うところ。
言葉の自由を奪われた中で、自分たちの信念を貫き通した天才達の物語が確かにそこにあった。
そしてこの二人の何がいいって、思い切り心のうちをぶつけ合った後にお互い咳き込んで笑い合う所なんですよね~~~!(二人とも結核)
とにかく狂気の世界だった2幕後半で、少しだけほっとできた、そんな場面でした。
なんていうか、最初ユンがヘジンを七人会に連れてきたときに「僕の親友」と言っていたの、本当か?とか疑ってごめんね。
同じ視点を持つことの難しさ
すっと流れるような台詞だったけど、とても印象に残った言葉が実はあって。
イ・ユンが言った「ヒカル――『輝く』という意味か」の一言。
私は本当に視野が狭い人間なので、恥ずかしいことにこの台詞の意味がしばらく分からなかったんですね。
ああ、でもそうか。これは本当は韓国語でお話している舞台なのだと理解したとき、自分に対して寒気がした。
日本の俳優が日本語で演じているのを、日本人の私が見ている。
これだけで脳がバグってしまって。
今まで色んな国の歴史のお話(1789、スカーレット・ピンパーネル、レミゼラブルなど)を見てきたけど、自分とは切り離して見えていたのに。
同じアジアのお話だとこうなってしまうのか……。(これは私自身の問題ですが)
いや、舞台として提供されている以上、エンタメとして普通に楽しむのもアリだとは思うのだけれども。(実際、歴史を知らなくても物語自体は充分楽しめます)
ファクション(ファクト「事実」×フィクション「虚構」)として構成されているからには、更にいうと、この歴史に日本も関わっているからには、そんなバグを起こしたくなかったな。
別にこの作品を見て、だから私たちは謝らなければならないとかそういうことではないのだけど。
うーーーーん、難しいな!!
もっと俯瞰的に見て、事実を認識すること。(どちらが正しいとか間違っているとかそういう次元ではなく)
舞台を通して、もっと深く知ろうとしていきたいなって思いました。
今まで見てきた韓国発のミュージカルはどれも歌が重厚でとても体力を消耗するのですが、だからこそ韓国でも観劇したいなと思い始めていて。(韓国の方達、まじで喉が凄いんだよなあ。)
でもこのファンレターは、まだ少し、本場で見るのは勇気がいるし怖いなと思っている私がいます。
いつか、今なら韓国でも見られると思うときが来るように本を読み漁ってみようかな、と思うのでした。
その他感想
・1幕最後の「繊細なファンレター」。セフン、ヒカル、ヘジンの3人で代わる代わる踊るところ、七人会に来た頃のきらきらした表情のセフンからは想像がつかないようなキマった顔をしててびっくりした。憧れのヘジンを手に入れた高揚感、恍惚感。でも海宝くんのああいう表情わりと好き。
・ヒカルが歌っていた中で、この訳凄いなあと思ったのだけど思い出せない(記憶力よ……)
「二人で黒い影をつくりましょう……」みたいな所なかったです?その後の「その影をのぞき込んだとき~」のところらへん。
・というかそもそも、ヘジンはなんで人の作品を勝手に出版させたの?とは思うけどね。本人への許可取り大事……。
・舞台上の木下晴香ちゃんをやっと拝見できたのですが、凄すぎて。最初の男性とも女性とも取れる出で立ちから、初めて「彼女」となったときの清楚な感じ。ヘジンに愛され身に付けた妖艶さ、そして死に向かう闇の立ち位置……本当何でもできるな。
・浦井さんは浦井さんであの写真とは別人のような、お爺さんのように見えて。どうやってんのあれ。ずっと穏やかだったヘジンが最後涙や鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き叫ぶ様は苦しすぎる。
・最後の方のヘジンはいつ死ぬのかハラハラするくらい衰弱しきっていて。寝る度にもしかして……と思ってしまうくらいだった。
・そしてこちらもやっと拝見できた木内さん。贔屓目抜きにして、実は登場人物の中でイ・ユンが一番好きでした。
・「生の伴侶」を読んだときの、あの感じ。セフンが七人会を陥れたことを怒ったり軽蔑するのではなくて、文字の通りに現実でも自分の思惑通りに事を進めていたことを「すごい才能だ」と喜んでいるように見えたのが本当にぞくぞくした……。
・最後の「イ・ユン先生は天才だ!!」の少しふざけた感じから「お前は書き続けろ」と直球で言うの、あまりにも良すぎる。
・七人会……そういうことか!!
おわりに
書いてる途中で本編を思い出しては苦しくなって、手を止めて、書き出して……の繰り返しでした。
Xにも書いたのですが、形が有る無し関わらず何かを作っている人は見て欲しいなと思うような作品でした。
自由がない中で命を削って書き続けた文人達のお話、恐らく何か刺さるものがあるのではないかな。
そう言えば、イ・ユンのモデルとなっている李箱の「翼」という本の日本語訳があるそうなので、まず読んでみようかな。
あー……(積み上げられた本を見ながら)、できるだけ早めに。
それでは!
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