【読書感想】自転しながら公転する【ネタバレ】

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感想

2021年に亡くなられた山本文緒先生の著書になります。

私が本を選ぶときによく利用しているアプリ「ブクログ」で発見し、タイトルと表紙に惹かれて購入しました。

本当に失礼で申し訳ないのですが、私はあまり作家さんたちについては詳しくありません。

ただ今回読んだ「自転しながら公転する」は表現が全く飾っていなくて「みんな、やっぱりそういうこと感じたりするんだなあ」と、妙にリアルさを感じる作品だなと読み終わったときに感じました。

以下よりネタバレありの感想になりますので、未見の方はご注意ください。

では、どうぞ!

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登場人物&あらすじ

登場人物

与野 都アウトレットモールのアパレルで働く契約社員
羽島 貫一都と同じアウトレットモールの店員。寿司屋で働く
そよか都の一つ年下。都とは幼なじみ
絵里都の高校時代の友人。既婚者
与野 桃枝都の母、専業主婦。更年期の症状が酷く、苦しんでいる

あらすじ

母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都。

アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えない。

職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。

正社員になるべき?運命の人は他にいる?

ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えは――――。

揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。

本書背表紙より

感想

若さ故の思考と成長したから見えてくる視点

最後、エピローグを読んで「最初のアレってそういうことか~~!」となってしまった一人です。

おそらく私以外にも騙された方、いるのではないでしょうか?

でもそう考えると、なんだかすごく面白いなって思って。

だって、彼女が都に対して感じていること、思っていることが、内容は違えどかつて都が母親に対して思っていたことと似ているのだもの。

その立場にたって初めて分かる視点や考え方は必ず存在するし、逆に若い頃持っていた自分の考え方が分からなくなることもあるのかな、と感じました。

よくある言葉で例えると、「今時の若い者は……」というのがそれに当てはまると思います。

自分の過去を振り返って現在の状況に苦言を呈する人もいるけれど、その人自身も絶対同じ道を通ってきているはずなんですよね。

私だって、外で友達と大声ではしゃいだり、逆に家にこもってずーーーっとゲームをしていたこともある。

でも今の自分が外で騒いでいる子を見たら「うるさいな……」と思ってしまうんですよね。

そうやって、今の自分の立場からでしか物事を考えられなくなってしまうのは避けたいなあ、とこの本のプロローグとエピローグを読んで思ったのでした。

どうせなら、「今の若者はこういうところが凄いな」と認めていける自分でいたいものです。

それから、本編で一番「分かる!!」となったのが、主に母親の介護のために両親と暮らすことに不満を募らせていた都が、いざ両親から別で暮らそうと提案されると「え、なんで?」となってしまっていたところ。

これは……私って本当にだめな人間だなと感じながらも共感しました。

アラサーのくせに何を言っているんだと思われそうなんですが、親がいるという安心感に乗っかっている部分はあります。

家庭の事情もあるのですが、正直、甘えすぎていると考えることもしばしば。

そのくせ、ちょっとしたことでイラッとしてしまいますし……本当実際文章にしてみると自分の情けなさが分かりますね。

なので都のこの心情を読んだとき、共感したと同時に少しだけ救われた感覚になりました。

こういう環境にいる人や同じ思いを持っている人、そしてその矛盾に苦しんでいる人って一定数いるのかなと少し楽になれた自分がいます。

人はいつだって他人が気になるもの

ああいう男性と付き合っているそよかが心底羨ましかった。高学歴で、いい会社に勤めていて、優しくて大人で、冷静に女の人を守ってくれる。

でも、自分はああいう人と巡り会える気がしなかった。

自分が巡り合ったのは、貫一だ。

山本文緒「自転しながら公転する」p277

「他人と比較する」という行為は、人間の永遠のテーマでもあり本質でもあると思っています。

自分より幸せそうな人を見て惨めな気持ちになったり、逆に自分より下にいる人見て優越感に浸ったり。

とても自分勝手だなと感じるのですが、結局皆そんなもんじゃないのかな、と。

きっと地球上に自分一人にならない限り、私たちは他人と比較し続けるのだと思います。

先ほど引用した文章は、後輩であるさやかにむけての都の気持ちですが、実はもう一人の友人、絵里(既婚者)に対しても都は割と劣等感を感じているんですよね。

自分より幸せそうできらきらしている人を見るのが辛い、だから都はなかなか絵里と会おうとはしなかった。

ある種、自己防衛みたいなものだと思います。

読み手として一歩引いた状況で見てみると、完全に自己中心的な考え方だと思うのに、都の思いは私にも重なるし、きっと貴方にも重なる部分があるはず。

し、しんどい~~~~!!!

だって、読んでると明らかにひどい女だなと思っちゃうんですよ。

都だって自ら貫一を選んだくせに、彼のことを自分を飾るアクセサリーだとでも思っているのか?という感想が出てくるんですよ。

それでもやっぱり、私の心の中にも都は存在するんですよね……。

本当に、人間の嫌な部分を表現するのが上手な作家さんですね。自己投影ばかりしてしまう。

ここまで書いてきましたが、他人と比較してしまうのは確かに良くない面もありますが、それだけでもないんですよね。

その行為によって「次は頑張ろう」と自分を奮い立たせることも出来るし、「あの人がこうなら、自分はこれを試してみよう」と新しい発見に繋がることもある。

嫌な方に流されてしまうことももちろんあるけれど、出来れば他人との比較を自分の成長に繋げられるような人間でありたいものです。

幸せってなんだろう

この疑問は割と全編を通して考えていたような気がします。

私たちは、どうせ生きるなら幸せな人生を送りたいと願うけれど、そもそも「幸せ」とは?

今はそれが幸せだと感じても、この先ずっと同じ事をそう感じることが出来るかは分からない。

というか幸せな「状態」なんてずっと続くわけじゃないんですよね。

形のないものを望んで必死に頑張って、手に入れたと思ったら「アレ、思ったのとなんだか違うな」なんてことだってある。

そして人間はどうしたって欲深いから、一度満たされるとその先を見たくなる。

「幸せになりたい」という願いは、いつか「幸せにならなきゃ」という義務感になって逆に苦しむこともあったりする。

……コロナ禍で何もかもが制限されたとき、普通に生活できることがどれだけ幸せかを身に沁みて思ったはずなんだけどなあ。(ミュージカル「マタ・ハリ」の舞台映像で「普通の人生」を聞いて号泣していました笑)

元の生活に戻るとすっかりそれを忘れてしまっている。

本当に、当たり前って怖いなあと思います。

本編に出てくる言葉で「なるほど」と思ったものが2つありますので、最後にそちらを引用して、感想を終えたいと思います。

何かに拘れば拘るほど、人は心が狭くなっていく。

幸せに拘れば拘るほど、人は寛容さを失くしていく。

山本文緒「自転しながら公転する」p436

別にそんなに幸せになろうとしなくていいいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ。

山本文緒「自転しながら公転する」p653

おわりに

今更ながら、「自転しながら公転する」というタイトルが本当に秀逸だなと感じました。

自分だけが変わったように見えて実は周りも変化している。

逆に周りがみんな変わっていくように思っていたとしても、自分だって同じように変わっている。

同じように見えて全く同じ事など起こらないのだと、毎日はルーティンじゃないと思わせてくれた本でした。

それにしても。

記事を公開しておいて何を言っているんだと思われるかもしれませんが、全っっっ然うまくまとめられなかった!!

読んでいて「共感する」ではなくて、「混同してしまう」と言った方がしっくりくる。

自分の嫌な部分を見せられているようで苦しくなったのは初めてです。まったく客観的に見られない笑

凄く素敵な小説に出逢えて良かったです。

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